ラジオの誕生

電波に音声情報を持たせ、遠方で受信するラジオ技術。その実験を世界で初めて成功させたのは1900年、カナダ生まれのレジナルド・フェッセンデンという電気技術者でした。レジナルドはラジオの改良を重ね、6年後には自分の無線局から世界で初めてのラジオ番組(レコード演奏、聖書の朗読など)の放送に成功します。
多くの人がラジオ放送に大きな可能性を感じ、レジナルドに続いて世界各地でラジオ放送の実験が繰り返され、ラジオの技術はみるみるうちに発達してゆきました。
歴史上、世界初の「公式な公共放送」とされるのは1920年11月2日、アメリカ・ペンシルバニア州の” KDKA”という放送局によるもので、同日に行われたアメリカ大統領選でウォレン・ハーディングが当選したという速報でした。
「広域の多くの人に、リアルタイムで情報を届けることができる」ラジオの技術は当時としては革命的なものでした。しかし、いくら放送局があってもラジオ受信機がなくては受信できませんし、ラジオ受信機が手元にあっても放送局がなくては受信できません。ラジオの普及には放送局とラジオ受信機の製造・販売を並行して行うことが必要でした。さまざまな企業が試行錯誤を繰り返し、紆余曲折の末、”RCA”という電気機器メーカーが1926年に放送専門会社として”NBC”という子会社を設立し、放送はNBCに任せて自社はラジオ受信機の製造に専念することになります。
ちなみにNBCは後にネットワークを二分し、NBCとABCというふたつのラジオネットワークが生まれます。このふたつのネットワークはその後もテレビに受け継がれ、現在でもいずれもアメリカの主要テレビネットワークとなっています。

放送局の採算性

RCAはラジオ受信機を売るたびに利益が生じますが、NBCはいくら放送しても利益が生じません。もちろん放送局あってのラジオなのですからNBCはRCAから一定のマージンをもらってもよいはずです。しかし子会社とはいえNBCは独立会社ですから独立採算の道を模索します。その結果採用されたのは「ラジオ放送中にCMを流すことで広告主から広告費を得る」というビジネスモデルでした。
当初は「放送は公共のもの。広告を流すなんて」という反対意見もありましたが、世間のラジオCMに対する反応は上々。こうして「民間放送」というビジネスモデルが成立し、現代に至るまで隆盛を続けています。

世界初のラジオCM

世界初のラジオCMが放送されたのはまだNBCがRCAから独立分社化される前の、1922年頃だろうといわれていますが正確な情報は残念ながら残されていません。後に「世界初のテレビCM」に登場する時計会社” Bulova”だったという説や、AT&T、カーディーラーのAlvin T. Fuller、音楽出版社のRemick's、新聞社のJersey Reviewなどが最初期にラジオCMを行っており、「世界初」の候補に挙げられています。おそらく同時期にいくつかのラジオCMが並行してスタートしたと思われますが、世界初のラジオCMがどれだったのかは現在となっては知るすべがないのです。
ただし、日本初のラジオCMについては明確な記録が残されています。
日本でラジオ放送が始まったのは1925年、NHKの前身にあたる「社団法人東京放送局」によるものです。こちらは公営の放送局ですから当然CMはありません。そして1951年9月1日の午前6時半に日本初の民間ラジオ放送局として中部日本放送が開局した際、その30分後の午前7時に放送された時報が精工舎(現セイコー)のものでした。「精工舎の時計が、ただ今、7時をお知らせしました」というコピーも正確に記録されています。