アメリカでテレビ放送が始まったのは1941年。日本ではそれに遅れること12年の1953年にテレビ放送が開始されました。
世界最古のテレビCMは1941年7月1日、アメリカで放送されました。そのCMの内容は「アメリカの地図の中央に” Bulova WATCH TIME”と書かれたアナログ時計が8時を指している」というシンプルな静止画のCMで放送時間は10秒。"America runs on Bulova time."というナレーションとともに放送されました。
Bulovaというのはニューヨークの時計宝飾店で、1926年に全米初のラジオCMを提供したのもこの店だったといわれています。
ちなみにこの映像はYoutubeにも公開されています。
一方、日本で初めて放送されたCMは1953年8月28日、精工舎の正午の時報です。偶然か必然かはわかりませんが、日米のテレビCMの歴史は「時計とともに時を刻み始めた」のでした。
2006年、東京のCM制作会社で1950~60年代の貴重なフィルムが大量に発見されるという出来事がありました。当時はまだビデオがなく、テレビ創成期のCMの資料はほとんど残されておらず、当時の生活文化を知る上でもこれらのフィルムは非常に貴重な資料となりました。
発見されたフィルムは全部で約8,000点、特に貴重な50年代のものも約2,000点もあったということですが、その中にはダイハツミゼット(当時多く見られた三輪貨物自動車)や池田勇人首相(当時)が出演している自民党のCMも含まれていました。「クシャミ3回、ルル3錠」で知られるあの風邪薬も、この当時から同じコピーを使い続けていたようです。
50年代の終わりから60年代の高度成長期、「三種の神器」といわれたテレビ・洗濯機・冷蔵庫、それに続く「3C(カラーテレビ、クーラー、自家用車)」が一般家庭に普及していき、それらの製品はテレビCMを通じて「豊かさの象徴」として人々に憧れを与えました。
またテレビの普及にともない、「スカッとさわやかコカコーラ」「あたり前田のクラッカー」など、テレビCMから流行語が発生することも増えてゆきました。テレビCMは日本の繁栄とともに発達してきたのです。
1970年代初頭、富士ゼロックスが「モーレツからビューティフルへ」というテーマのCMを発表しました。
このCMはコピー機のCMだったのですが、「戦後から高度成長期を経て一定の物質的豊かさを回復した日本だが、これからはガムシャラに働いて経済成長を遂げるだけでなく、もっと洗練された生活を楽しんだり人間性や感性を大切にしよう」というメッセージだと受け取られて大きな社会的影響を及ぼしました。
このCMを機に、テレビCMは単なる商品宣伝だけではなく社会的に大きなメッセージ力を持つ媒体であるという認識が進み、以降さまざまな企業メッセージが込められた社会型CMも増えてゆきます。
80年代に入るとデジタル技術が進化し、実写では撮影不可能な映像合成技術も登場しました。ありえない場所に人間を出現させたり、人間が動物やロボットに変身したりといった特殊効果技術もまずテレビCMに投入され、それから映画やテレビ番組に使用されるといったことが珍しくなくなりました。(テレビCMは放送秒数が短く制作費が潤沢なため新技術が投入しやすかった)
コンピューターグラフィックスの進化に伴い炎や波、煙といった複雑な動きも表現できるようになり、「実在しない人間をCGで創り出す」といったことまで可能になりました。
2011年に放送されたグリコの「アイスの実」のCMでは、実在しないAKBのメンバー「江口愛実」がCGで生み出されたのも記憶に新しいところです。
「2次元で表現できるものなら、創れない映像はない」とまでいわれるレベルに到達した現在のテレビCM技術。それだけに、どんな不思議な映像でも「どうせCGでつくったんだろ?」と視聴者にスルーされてしまう可能性もあります。
これからのテレビCMは技術面だけではなく、発想そのものの斬新さや人間性に深く訴えるものなど、よりソフトパワーが要求される時代になっていくのかもしれません。